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東京地方裁判所 昭和44年(むのイ)93号 決定 1969年2月05日

被疑者 築地警察署第二一号 外一〇名

決  定

(被疑者氏名略)

右の者らに対する不退去等被疑事件につき、糠谷秀剛から準抗告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

東京地方検察庁検察官小川源一郎が申立人と被疑者築地警察署留置二一号、二三号ないし二六号、三七号ないし四〇号との接見について、同庁検察官清澤義雄が申立人と被疑者築地署留置五四号との接見についてそれぞれその日時、場所及び時間の指定を拒否した処分を取消す。

同庁検察官は申立人から申出があつたときは右被疑者らとの接見の日時、場所及び時間を指定しなければならない。

申立人のその余の請求を棄却する。

理由

本件申立の趣旨及び理由は準抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用する。

一、当裁判所の事実調の結果によれば、被疑者らは頭書被疑事件によりそれぞれ昭和四四年一月一八日及び翌一九日に逮捕され、引続いて同月二二日及び翌二三日築地警察署に勾留されると同時に接見等を禁止されていること、及び右被疑事件はいずれも同月二〇日及び翌二一日司法警察員から東京地方検察庁検察官に対し送致の手続がとられ、爾後同庁において被疑者築地警察署留置二一号、二三号ないし二六号、三六号ないし四〇号については検察官小川源一郎が、同署留置五四号については検察官清澤義雄がそれぞれ弁護人及び弁護人となろうとする者からの申出に対し、接見の日時、場所及び時間の指定(以下接見の指定という)に関する処分を行うことと定めたこと、一方弁護士である申立人は右被疑者らについて勾留がなされた後の同年一月二六日及び二七日の両日に亘りそれぞれ各被疑者らに一度づつ接見して右被疑事件について弁護人となることの依頼を受け弁護人選任届書に署名を求めたが、右被疑者らはいずれも氏名を黙秘して署名を拒んだためやむなく築地警察署の留置番号のみを記載して指印させたこと、申立人は右被疑者らに対して勾留期間の延長がなされた後である同年二月一日築地警察署の司法警察員に対し右被疑者らとの接見を申出でたところ東京地方検察庁検察官の発する接見指定書を持参されたいとの理由のもとに接見を拒否されたため、同庁検察官小川源一郎と同清澤義雄に対し右被疑者らとの接見等の指定を求めたがいずれもこれを拒否され、その際右検察官両名からそれぞれその理由として弁護人と連署のある適式な弁護人選任届が提出されないかぎり申立人を被疑者らの弁護人と認めることはできず、また申立人は前記のように既に被疑者らの弁護人とならうとする者として被疑者らと接見する機会を与えられたにもかかわらずついに適式な弁護人選任届を得られなかつたのであるからもはや申立人は被疑者らから弁護人として選任する旨の確たる意思表示を得られなかつたものというべきで、弁護人となろうとする者としての地位は認めがたい旨を告げられたことが認められる。

二、なるほど申立人の指摘するとおり公訴提起前の弁護人の選任についてはとくに弁護人と連署した書面を差し出すべき旨を定めた直接の規定はないけれども、刑事訴訟法第三二条第一項が公訴提起前にした弁護人の選任は第一審においても効力を有する旨を定めていることに徴すると、やはり起訴前における弁護人の選任も第一審において効力を有する適式な弁護人選任届によるべきことを前提としているものと解されるので、弁護人選任届は公訴提起の前後を問わず弁護人と連署した書面を差し出すことを要するものというべきである。それ故被疑者らから氏名の自署を欠く弁護人選任届のみしか得られなかつた申立人は未だ被疑者らの弁護人としての地位を有する者と認めることはできない。

三、しかしながらたとえ不適式なものであるとしても、前記のとおり申立人が一応氏名の自署を欠くだけで被疑者らの指印の押捺ある弁護人選任届書を得ている以上、被疑者らから右被疑事件について弁護人となることの依頼を受けて弁護人となろうとしていることは明らかであつてただ選任の手続だけが完了していない状態にあるに過ぎないものというべきである。従つて申立人が被疑者らの弁護人となろうとする者であることは否定できないところといわなければならない。そして更に、なんら適式な弁護人選任届を得る意思もなく、かかる弁護人となろうとする者としての地位を利用して、弁護人選任について必要な範囲を超えて数回に亘り被疑者らとの接見交通を重ねようとするが如き特段の事情が認められない本件においては、単に申立人が既に勾留期間の延長のなされる以前において一回被疑者らと接見して適式な弁護人選任届を得るべき機会が与えられているというそれだけの理由によつて弁護人となろうとする者としての地位が失われるものではない。

四、従つて右検察官両名が申立人に対し右被疑者らの弁護人となろうとする者に該らないとして接見の指定を拒否した処分はいずれも違法な措置として取消すべきものであり、同庁検察官は申立人から申立があつたときは弁護人となろうとする者として接見の指定を行うべきである。

なお、右被疑事件が同年一月二〇日及び翌二一日に司法警察員から検察官にそれぞれ送致され、爾後検察官において接見の指定が行なわれていることは前記のとおりであつて、築地署の司法警察員が申立人からの接見の申出を拒否した前記の措置は単に検察官の指示に基いてなされたものでそれ自体独立して刑事訴訟法第三九条第三項の処分として準抗告の対象となるものではない。

更に申立人が検察官に対し、申立人から差し出された弁護人選任届の受理を求める点も事柄の性質上準抗告の対象となるものとは認めがたい。

そこで検察官が申立人と被疑者らとの接見を拒否した処分の取消を求め、その接見の指定を求める申立は理由があるのでこれを認め、その余の申立はその理由がないので棄却することとし、同法第四三二条第四二六条に従い主文のとおり決定する。

(裁判官 片岡聰)

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